近年、薬剤師の働き方は多様化しており、調剤薬局や病院以外の選択肢として「企業への転職」を検討する方が増えています。
薬学的知識や医療経験を活かしながら、ワークライフバランスの改善や年収アップ、キャリアの幅を広げることが可能な企業転職。しかし、「未経験でも企業に転職できるのか」「どんな職種があるのか」「実際に転職した人はどう感じているのか」など、疑問や不安を抱える方も多いでしょう。
本記事では、実際に薬剤師から企業へ転職した方々の体験談をもとに、代表的な5つの職種について詳しく紹介します。あなたの次のキャリアを考える際の参考になれば幸いです。
この記事でわかること
- 薬剤師が企業転職する際の主な5つの職種と特徴
- 実際に転職した薬剤師の体験談と成功ポイント
- 各職種の年収・働き方・将来性
- 転職を成功させるためのポイントと注意点
薬剤師が企業転職を考える理由
薬剤師として調剤薬局や病院で働いていても、さまざまな理由で企業への転職を考える方がいます。主な理由としては以下のようなものが挙げられます。
企業転職を考える主な理由
- ワークライフバランスの改善:土日休み、残業の少なさを求めて
- キャリアアップの可能性:昇給・昇格の機会を求めて
- 職場の人間関係:現場での人間関係に疲れた、より広い人間関係を求めて
- 専門性の発揮:薬学知識を別の形で活かしたいという希望
- 過誤やミスへの不安解消:調剤ミスなどへの精神的プレッシャーからの解放
企業では完全週休二日制で土日祝日が休みというケースが多く、また薬剤師の専門性を活かせる職種も数多く存在します。新たな環境で自分の能力を発揮したいという方にとって、企業転職は有力な選択肢となるでしょう。
企業転職を考える際の葛藤
企業への転職を考える際、多くの薬剤師が感じる葛藤があります。
- 「企業未経験だけどやっていけるのか?」
- 「せっかく取得した薬剤師免許が無駄になるのでは?」
- 「薬学部の学費を出してくれた親に申し訳ない」
しかし、実際に転職した方の多くは3ヶ月程度で企業環境に順応しています。また、薬学知識は企業でも大きな武器となりますし、中には副業として薬剤師の仕事を続けている方もいます。親御さんの気持ちを考えても、安定した暮らしと幸せを願っているのであれば、必ずしも薬剤師として働き続ける必要はないでしょう。
薬剤師からの企業転職5選|各職種の特徴と体験談
それでは、薬剤師から企業へ転職できる主な5つの職種について、詳しく紹介していきます。
1. CRA(臨床開発モニター)
CRA(Clinical Research Associate)は、新薬の臨床試験(治験)が適切に実施されているかを監督・モニタリングする専門職です。医療機関を訪問して治験の進捗確認や品質管理を担当します。
項目 | 詳細 |
---|---|
転職時年収 | 約450万円(経験により昇給率が高い) |
働き方 | 内勤+外勤(出張あり) |
転勤 | 基本的になし(CROの場合) |
主な就職先 | CRO(治験受託機関) |
未経験転職 | 可能(2-3年のMR経験や薬剤師経験があると有利) |
CRAの体験談〜薬局薬剤師からCRAへ転職した32歳女性の場合〜
「CRAに転職をしてからは、柔軟な働き方が可能になりました。薬剤師時代は店舗の営業時間に縛られていましたが、CRAになってからはリモートワークやフレックスタイム制度を活用できるようになりました。働き方の柔軟性が上がったことで、より充実した生活を送れるようになったと感じています。」
「特にやりがいを感じたのは、新薬の承認に関わった時です。私の努力が直接的に新薬の開発に貢献していると実感しました。一方で薬剤師時代は毎日患者さんと直接接していましたが、CRAではその距離が離れてしまったことは少し残念に思います。そのため今は副業として薬局でのパートも始めました。」
「転職時は未経験だったので一時的に年収が下がりましたが、CRAは昇給率が高いので、すぐに薬剤師時代の年収に追いつきました。今では転職して本当に良かったと思っています。」
CRAのメリット・デメリット
メリット
- 昇給率が高く、将来的に年収1,000万円も可能
- リモートワーク・フレックスタイム制が充実
- 有給休暇が取りやすい
- キャリアチェンジの選択肢が豊富
デメリット
- 出張が多く体力が必要
- 臨機応変な判断力が求められる
- 繁忙期や炎上プロジェクト時は非常に忙しい
- 英語力が求められることがある
2. MR(医薬情報担当者)
MR(Medical Representative)は医療用医薬品の営業職として、医師や薬剤師に医薬品の情報提供を行います。単なる営業ではなく、自社製品の適正使用促進や副作用情報の収集など、医薬品の専門家としての役割を担います。
項目 | 詳細 |
---|---|
転職時年収 | 約450万円〜600万円 |
働き方 | 外勤中心 |
転勤 | 製薬会社:あり、CSO:少ない |
主な就職先 | 製薬会社、CSO(医薬品販売業務受託機関) |
未経験転職 | 可能(薬剤師資格は有利に働く) |
MRからCRAへのステップアップ事例〜キャリアの幅を広げる選択〜
「私はMRとして4年間働いた後、CRAにキャリアチェンジしました。MRとして医師との良好な関係構築やコミュニケーションスキルを身につけたことが、CRAでも大いに役立っています。」
「転職の理由は主に東京で定住したいという希望があったからです。MRは全国転勤があり、地方勤務が続いていましたが、友人や家族との時間を大切にしたいと考えていました。」
「年収面では一時的に下がりましたが、住宅手当などの福利厚生を考慮しても、ワークライフバランスの向上と将来性を考えると満足のいく選択でした。最終的に製薬会社のCRAになれたことで、キャリアの幅も広がりました。」
MRのメリット・デメリット
メリット
- 年収が高く、成果次第でさらに上がる可能性
- 働き方の自由度が高い(自己管理型)
- 医師など専門家との人脈形成
- 薬剤師資格を活かせる
デメリット
- 製薬会社では全国転勤がある
- 営業ノルマのプレッシャー
- リストラのリスクがある
- 医師との面会調整の難しさ
3. メディカルライター
メディカルライターは、医療・医薬品に関する専門的な文書を作成する職種です。製薬会社の薬事申請資料や学術論文、医療情報サイトの記事まで、幅広い文書作成を担当します。
項目 | 詳細 |
---|---|
転職時年収 | 約400万円〜500万円 |
働き方 | 内勤中心 |
転勤 | 基本的になし |
主な就職先 | 製薬会社、CRO、医薬系出版社、広告代理店 |
未経験転職 | 可能(薬学知識を活かせる) |
病院薬剤師からメディカルライターへ転職した体験談
「病院薬剤師として3年間勤務した後、メディカルライターに転職しました。最初は文章を書いた経験がほとんどなく不安でしたが、薬剤師としての知識が重宝され、意外とスムーズに仕事に溶け込めました。」
「最新の医療情報に触れられることがとても刺激的です。薬剤師時代では知り得なかった医療の深い部分や薬に関する最新情報を学べるのが大きなやりがいになっています。」
「自分が書いた記事が雑誌やWebサイトで公開されたときの達成感は、薬剤師時代には味わえなかった喜びです。初めは年収が下がりましたが、経験を積むことで年収アップも見込めるため、長期的なキャリア形成として満足しています。」
メディカルライターの主な仕事内容(勤務先による違い)
- 製薬会社・CROの場合:治験総括報告書、薬事申請資料(CTD)などの作成
- 医薬系出版社の場合:医師・医療従事者向け雑誌記事、一般向け医療情報記事の執筆
- 医薬系広告代理店の場合:製品情報概要、MR研修資材、医療用医薬品パンフレットなどの作成
メディカルライターのメリット・デメリット
メリット
- 勤務形態を問わず続けられる(在宅・フリーランス可能)
- 仕事内容が多岐にわたり単調さがない
- 幅広い人間関係と刺激がある
- 最新の医療情報に触れられる
- 成果物が形になる達成感
デメリット
- 仕事量の波がある(忙しいときは非常に忙しい)
- 地味で細かい作業が多い
- 薬剤師として現場復帰する際にブランクになる
- 正確性が求められるプレッシャー
4. 安全性情報管理職(PV)
PV(ファーマコビジランス)職は、治験や市販後の医薬品における副作用情報を収集・分析・評価し、医薬品の安全性を確保する重要な役割を担います。
項目 | 詳細 |
---|---|
転職時年収 | 約330万円〜450万円 |
働き方 | 内勤のみ |
転勤 | 基本的になし |
主な就職先 | 製薬会社、CRO |
未経験転職 | 可能(薬理学知識が活かせる) |
PVのメリット・デメリット
メリット
- 内勤業務で接客要素がない
- 医学的・薬学的知識が活かせる
- 需要が安定している
- 重要性の高い業務でやりがいがある
デメリット
- 突発的に忙しくなることがある
- 正確性が求められる細かい作業が多い
- 報告期限に追われるプレッシャー
5. CRC(治験コーディネーター)
CRC(Clinical Research Coordinator)は、医療機関で治験が円滑に進むようサポートする職種です。医師、被験者、製薬会社の橋渡し役として重要な役割を担います。
項目 | 詳細 |
---|---|
転職時年収 | 約380万円 |
働き方 | 内勤+外勤(遠方なし) |
転勤 | 基本的になし |
主な就職先 | SMO(治験施設支援機関) |
未経験転職 | 可能(特に病院薬剤師は転職しやすい) |
CRCのメリット・デメリット
メリット
- 全国に支店があり地元で働ける
- 引っ越し時も最寄りの支店に異動可能
- 患者さんと接する機会がありやりがいを感じやすい
- 医療現場経験が活かせる
デメリット
- 年収が上がりにくい
- キャリアパスが限定的
- 医療機関内での立場が難しいことがある
薬剤師から企業への転職を成功させるポイント
薬剤師が企業への転職を成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、実際に転職に成功した方々の経験をもとに、そのポイントを紹介します。
転職成功のための5つのポイント
1. 転職時期を見極める
企業転職、特にCRAやメディカルライターなどは20代〜30代前半での転職が有利です。MRからCRAへの転職も、20代のうちに決断するとチャンスが広がります。35歳を超えると転職のハードルが高くなる傾向があるため、早めの行動が重要です。
2. 自己分析と業界研究を徹底する
自分がどんな働き方を求めているのか、どの職種が自分に合っているのかを見極めることが重要です。また、志望する業界や企業についてもしっかり調査し、面接で的確に答えられるよう準備しましょう。
3. 転職エージェントを賢く活用する
特に未経験の業界に転職する場合、転職エージェントの活用は必須です。メディカルライターやCRAなどの求人は一般には出回らないことが多く、エージェント経由で